質量欠損現象から導いた物理理論と宇宙構造


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 第5章.ブラックホールの内部世界


 この章の概要と結論    
  ブラックホールのシュバルツシルト半径内に落下した観測者の視点


ブラックホールは強い重力場により時間速度比がゼロになった天体である。そのため、巨大な真の質量を持ち、強大な重力場がある。しかし質量項はその生成過程で放出したエネルギーに相当する慣性質量の減少があり、強い重力場から単純に計算される慣性質量よりも実際には小さい場合が多いだろう。

自由落下観測者から見るとブラックホール内部は裏返しの空間となる。ブラックホール中心と、それに付随する事象の地平が全天に等距離に広がり、その球体の中心にいる様に観測される。これは観測者を完全に閉じ込める閉鎖空間である。

落下観測者がシュバルツシルト半径を超えたとき、この状態は完了する。そしてその瞬間、外部世界はもちろん自分よりも後から落下してくる物体からも隔離された閉鎖空間に置かれた事になる。この空間内では遠方ほど先に落下した物体となる。ただし光が届くまでの時間と遠方ほど後退速度が大きいことによる固有時間の遅延を考慮すれば、遠方天体ほど初期宇宙であるように観測される。

よく誤解されているが、シュバルツシルト半径を超えたからといって観測者が自由落下しているかぎり、事象の地平の外であり、通常の空間である。特に巨大なブラックホールの場合には落下観測者は何も気づかないうちにシュバルツシルト半径を超えてしまう事もある。

この閉鎖空間(事象の地平で包まれた空間)は光速度で縮まっていく。小さいブラックホールならば一瞬であるが、巨大なブラックホールだと数百億年以上という事もあり得る。

 
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5-1.ブラックホールに関する基本的原理                





@

A

B

C

D

E

F

G


H





本論は下記原理に基づき展開した。これらの原理が正しければ、本論の結論は多少奇異に感じたとしても、正しいだろう。

重力場により光の進路は曲げられる。

光はあくまで真空中を直進している。それが曲がって見えるのは、3次元空間が曲がっているためである。

空間が曲がる事により2点間に複数の光路が描けた場合、それらの光路長は全て等しい。

ブラックホールに近づくと、その大きな重力により光路が曲げられ、中心に向かう光路が多くなる。

シュバルツシルト半径の所まで行くと、観測者からのすべての光路はブラックホール中心に向かう事になる。

遠方観測者にとってはシュバルツシルト半径の所に事象の地平が存在する。

事象の地平とは相対的な存在であり、観測者から見た空間の後退速度が光速度に達する地点である。

そのため自由落下観測者にとっての事象の地平は、例えシュバルツシルト半径内でも常に中心方向の離れた位置に存在する。決してそれに追いつくことはない。    

自由落下観測者にとってはシュバルツシルト半径内であっても事象の地平の外側なので、彼の属する空間は通常の空間であり、通常の物理法則が働く。巨大なブラックホールの場合、自由落下観測者がシュバルツシルト半径を超えて落下しても、そのことに気づかない場合が多いだろう。


  


5-2.ブラックホール内部での質量エネルギー保存則                  

  
ブラックホールは巨大質量の重力により脱出速度が光速度を超えてしまった星と理解されている。

ブラックホールの生成メカニズムは小さな物(太陽質量の数倍程度)の場合は大質量の星の表層爆発による爆縮など、特殊な条件が必要となる。しかしもっと桁違いに大質量の場合には自己収縮のみでブラックホールに移行しうる。この様なブラックホールはたいていの銀河(小宇宙)の中心に存在しているらしい。


星などが自己重力で収縮する場合には、通常そのポテンシャルエネルギーを放出しないと収縮できない。この放出量はブラックホールになるほどの質量の場合、元の質量の数十%に達することも予想される。従って銀河の初期形成段階ではこのメカニズムによる巨大なエネルギー放出があったと推定され、現在遠方宇宙で観測されているクェーサーからの巨大なエネルギー放射メカニズムがこれによるものであろうと言われている。




上図の様なブラックホールについて考察する。外部観測者の視点では落下物体(質量m)はBの位置で時間が停止し、そこに止まったまま事実上消失する。これは標準的なブラックホール理論による結論である。この位置での落下物体の速度は光速度に達するとされている。

無限遠から落下して得る落下速度と、そこからの脱出速度は等しいから、Bの位置からの脱出速度は光速度になる。これも標準的な理論でそうなっている。

これを自由落下物体上の観測者の視点で見れば時間が停止する様なことはなく、Bの位置を超えて落下を続ける。しかしBの位置を過ぎても加速されるとすると、落下物体は巨大質量の星に対して mc^2以上のエネルギーを持ち、最終的には∞のエネルギーを持つことになってしまう。

小さな落下物体を吸収しただけでブラックホールの質量エネルギーが∞になるはずはないから、この落下物体の質量は−∞にならなくてはならない。しかしこのような物理的にはありえない−∞などという結論は回避しなくてはならない。

3次元空間では慣性質量保存則に従う。 慣性質量m=質量項+エネルギー項



そのためには「巨大質量の星に対してAの位置では加速度運動、Bの位置からは等速運動となる」と、ここでの考察では結論する。ブラックホールの重力ポテンシャルの井戸は底無しに近いのであろうが「落下物体が得る事のできる運動エネルギーはmc2が上限である」というのが相対性理論から得られる結論でもある。

シュバルツシルト半径内では落下物体は等速運動となるが、それでも重力ポテンシャルの井戸は中心ほど底無しに近く深まることは変わりない。標準理論では−∞とのことだが、それには疑問を感じるものの、かなり深いポテンシャルを持つことは間違いないだろう。

するとBの観測者がC,Dの落下物体を見ると重力赤方偏移が観測されることになる。もしBから見たDの位置での重力ポテンシャルの差が(脱出速度=光速度)に達するとすればDは無限に赤方偏移し、視界から消える。この地点が落下観測者から見た場合の「事象の地平」でもある。

つまり遠方の観測者にとっての事象の地平はシュバルツシルト半径の位置になるが、自由落下観測者にとっての事象の地平は、例えシュバルツシルト半径内でも常に中心方向の離れた位置に存在する。決してそれに追いつくことはない。


このように深い重力ポテンシャルの井戸を落下しながらも「シュバルツシルト半径を超えると等速運動になる」という劇的な変化は、自由落下物体から見て何らかの空間構造変化が起こっている事を予想させる。


  


5-3.ブラックホールの内部構造                        

ブラックホールに落下する観測者の視点でブラックホールに近づき、そして内部に入った時の状況を考察する。ブラックホールに限らず大質量の星に近づくと程度の差はあれ下図のように光の通路が曲げられる。すると観測者は青矢印の範囲に大質量の星を見る事になり、実際よりも大きく見える事になる。

ここで重力により光の通路が曲げられるというのは、相対性理論によれば「重力により空間が曲がったからであり、あくまで光は直進している」とされている。つまりこれはレンズ作用により大きく見える、というだけの話ではなく、観測者にとって実際に大きくなっているのだと解釈してよい。

誤解しないように補足すると、青矢印の範囲に大質量の星が実在している→その範囲ではどの方向に直進しても大質量の星に到着する、ということである。質量まで大きくなるわけではない。




ここでもう一つの重要な原則がある。「光は2点間の最短距離を通る」という原則である。上図で落下物体と大質量の星を結ぶ光の通路は平面で書くと曲がった通路ほど長く見えるが、曲がった3次元空間では全て等しい距離になる。これは曲がった2次元表面、例えば地球表面で南極点と北極点を結ぶ最短距離の表面線は無限に引けて、全て同じ距離になる事に例えられる。


以上をふまえて以下の図でブラックホールに近づき、その内部に入るときの状況を考える。



ブラックホールに近づいた場合、遠方から観察する外部観測者の視点と、ブラっクホールへ自由落下する観測者の視点では全く別の世界となるので、両者を対比しながら書いている。




上図のように落下物(観測者)が大質量の星(ブラックホール)に近づくと光の進路が曲げられる。これを自由落下観測者の視点で見ると上図右の様に大質量の星が大きくなり覆いこむ様に見える。距離は全て等しくなるので球の内面状となる。

実際には事象の地平が中間にあるので、観測者には事象の地平(黒い幕と表現するのが近い)で覆われていく様に見える。

尚、事象の地平は外部観測者にとってはブラックホールのシュバルツシルト半径のところにある。しかし自由落下観測者にとってはシュバルツシルト半径のところとは限らない。ブラックホールと十分に離れているときにはシュバルツシルト半径のところが事象の地平となるが、近づくほどシュバルツシルト半径よりも後退する。

自由落下観測者にとっての事象の地平とは、空間の後退速度が光速度に達し赤方偏移が∞になるところと定義してよい。ブラックホールの重力ポテンシャルの井戸は底無し(またはそれに近い)なので、シュバルツシルト半径を超えて自由落下しても、常に大質量の星との間には事象の地平が生じる。また定義からわかる様に自由落下観測者が事象の地平を超える事はありえない。  

この図ではイメージしやすくするために「大質量の星」を書いているが、実際には見えない。存在しないとも言える。なぜならこれは事象の地平で包まれているからである。事象の地平はそこでこの宇宙空間,実在の世界が終わっていることを意味し、その先のことを考える意味は無い。存在しないと考えてよい。


次の図は落下物(観測者)がブラックホールに更に近づき、シュバルツシルト半径を超えて落下したときの状況を考えたものである。




ブラックホールに更に近づいていくと、ますます事象の地平が観測者を覆うようになり、外部世界は小さな窓から見えるだけとなる。この段階ならば落下観測者は外部世界に脱出することも不可能ではない。

しかし落下観測者がシュバルツシルト半径を超えると完全に事象の地平で覆われてしまい、脱出は不可能になる。この時点で落下観測者の後から落下してくる物なり人は別世界となり、この落下観測者にとっては存在しなくなる。周囲に見えるものは全て先に落下していた物体であり、遠方ほど先に落下した物体である。

落下観測者は外部世界とは裏返しの世界にいることになる。全ての方向の等距離に事象の地平があり、その先に大質量の星が存在するというイメージである。どの方向に向かっても大質量の星に達する道しかない。これは単に「そのように見える」という話ではない。実際にそのような空間構造なのであり、重力の働き方もそれに従う。

全天に大質量の星の表面が広がって存在し、しかも大質量の星までの距離が全て等距離となるため、大質量の星と落下観測者の間には非常に大きな重力ポテンシャルの差があるにもかかわらず、落下物体に対する重力は打ち消されるために重力場ではそれ以上加速されない。

ただし大質量の星との距離は速度cで縮まっていく。つまり全天を覆う事象の地平までの距離が縮まっていく。そして距離が近くなるほど潮汐力の影響は避けられない。
  
重力ポテンシャルの差は存在するので、落下観測者から離れた物体を観測すると重力赤方偏移を受けて観測される。さらに離れると重力赤方偏移が増大していき、ついには「事象の地平」となる。

このように考えると先に得た結論「落下物体(観測者)はシュバルツシルト半径に達するまでは加速度運動、そこを超えると等速運動になる」ということが無理なく説明できる。


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備考


これまでは2つの物体の質量が同等の場合について考えてきたが、今回は下図の様に結合する両者に大きな質量差がある場合について考える。もしmA>>mBであれば両者に加わる結合力による力(F)は等しいから、加速度a≒F/Mの関係なので大質量物体はほとんど動かず微小物体側のみが動く。



仕事量は(F×移動量)だから、発電モーターは主に微小物体側からのみエネルギーを取り出せることになる。従ってこの場合には結合エネルギーによる質量欠損は主に微小物体側のみに見られる現象となる。 

では結合エネルギーが微小物体の質量よりも大きい場合にはどうなるか? Ef>mB*c^2

微小物体が近づいていくと発電モーターがエネルギーを取り出し、あるところで微小物体の慣性質量がゼロになる。すると微小物体のFがゼロになるために発電モーターはそれ以上エネルギーを取り出す事ができなくなる。時間も停止する。つまり結合エネルギーがmB*c^2 よりも大きい場合には完全には結合することができない。

このように、2物体の慣性質量が異なる場合には両方の質量がゼロになる、という現象は起こらない。質量の小さい方のみ質量がゼロになりうる。先の電子−陽電子結合体は電子と陽電子の質量が厳密に等しいために結合体の慣性質量が消失した、と説明できる。

また上記は陽子と電子の関係にも当てはまりそうである。ただ、この場合には電気力だけでなく各種の力(核力)が関与してくるし、量子論的効果の影響もあるので単純ではないだろうが、電気力だけで単純に計算すれば、電子の質量が消失する距離は約 2.8×10^-15 mとなり、陽子のサイズが半径約 1.2 × 10^-15 mだから、電子と陽子は完全には合体できないかもしれない。

このような現象については、例えばブラックホールにおいては定説でもそうなっている。外部観測者の座標から見ると落下物体はシュバルツシルト半径のところで、時間が停止してその位置に永遠に留まる。ただし固有時間が停止するので放射,反射は起こらず、確認する方法はない。すなわち事象の地平と一体化する。この宇宙空間はこの「事象の地平」で終わっている。その先は存在しない。

これは外部観測者から見た状況であるが、自由落下物体上の観測者から見たらどうだろうか?この場合、シュバルツシルト半径の所で、それ以上の運動エネルギーを得る事はなくなる。つまりブラックホール中心に対し等速運動(光速度)になる。最終的にはブラックホール中心に達して衝突し、その運動エネルギーを開放するのだろうが、そのエネルギーはブラックホール内に留められる。
               
定説ではブラックホール中心の重力ポテンシャルはマイナス∞になると考えられており、普通に考えると落下物体は最終的には無限のエネルギーを持つ事になるが、当然の事ながらそうはならないだろう。∞が出るような物理理論はおそらく間違いがある。